遠藤園子*クリスタルボウル CD「祈り〜石の記憶・宇宙の歌」
1.クリスタルボウルの出逢い
もうかれこれ十数年前のことになります。私は当時学校に勤務していましたが、仕事が非常に忙しく、身体は疲れているのに頭が冴えて眠れないという日が続いていました。音楽が好きだった私は、何か神経を鎮め、眠りの助けになってくれるものはないかと、さまざまなヒーリング音楽をインターネットで試聴していました。
そんなある夜、耳で聴いているのに、まるで音が液体のように全身に流れ込んできて、全身がゆるみ、心は穏やかに幸福感で満たされる不思議な音に出逢いました。それがクリスタルボウルとの出逢いでした。さっそくその海外の演奏家のCDを注文し、毎日それを聴いては眠るようになりました。
それから数年後、教え子たちの卒業と同時に私も先生の仕事を離れ、夢に名前が浮かんできたアメリカのアリゾナ州セドナへと旅に出ました。インターネットで予約した宿には、思いがけず二つのクリスタルボウルがあり、驚く私に管理人さんが「ここにいる間、自分のものだと思って自由に弾いていいんよ。」と言ってくれました。
奏で方もわからないままマレットを持ち、自分の耳を頼りにボウルに触れていくと、やがてボウルが大きく歌いだしました。美しい音色と微細な音の波がからだの中に流れ込み、全身の細胞が心地よく振動するのを感じました。音として、身体体験として、ただただ心地よく、魔法をかけられたように、うっとりとその心地よさを味わいながらボウルを奏で続けました。音たちは私のからだばかりでなく、あたりを螺旋を描きながら楽しそうに飛び回り、やがて部屋中が心地よい振動で揺れていきました。それはまるで、振動する美しい繭の中にいるような、恍惚とする体験でした。
2.アルバム『祈り〜石の記憶・宇宙(そら)の歌』
旅から帰って、海外から自分の最初のクリスタルボウルたちを迎え、やがて演奏を聴いていただくようになりました。即興を基本として活動してきましたが、自宅でもクリスタルボウルの音が聴きたいというお言葉をいただくようになり、CDづくりに着手しました。が、なかなか納得がいかず、一旦録音を中断したところで2011年の東日本大震災が起こりました。
東北に住んでいた私は、しばらくは毎日が必死でした。日々の暮らしの間に支援ボランティアに出かけながら、私はこの先、人生をどう生きたいのかと考えるようになりました。今日と同じように明日がくるとは限らない。今日が最後の日かもしれない。だとしたら今日、やりたいことは何なのか。ここまでの人生で、やろうとしてやり残していることは何なのか。
震災から受け取った「今日が最後の日だったら?」という問いかけは「やりたかったことを先延ばしにしない」という答えになり、震災後に訪ねた地元宮城や福島でいただいた「ぜひCDを」という言葉に後押しされて、再びCD制作に取り組むと決意しました。不思議なもので、そう思った途端、制作を後押しして下さる方々が現れ、多くの方々に援助を受けながらこのCDを完成することができました。
CDの前半は震災以前に録音していた、私にとっての原点と言える曲たちです。演奏するたびに浮かんできた古代の日本、とりわけ「天平時代の奈良」の風景や土の匂いを感じながら演奏しています。5曲目からは、震災後の曲です。自然の脅威の前に人や町や村や暮らしや風景、多くの日常が失われ、その後の色のない世界のあとで、聴こえてきた音たちです。
CDタイトルの『祈り〜石の記憶・宇宙(そら)の歌』は、クリスタルボウルが伝えてくれた言葉です。クリスタルボウルは、この星の歴史を眺めながら宇宙と交信してきた「鉱物」の意識を持つ、寡黙で思慮深い叡智の存在だと私には感じられます。私にとってはこの地球の大切な家族です。このCDを通して、やすらぎや静けさと同時に、鉱物界の持つ深い愛と叡智を感じていただければ、これほど嬉しいことはありません。
出会いに心からの感謝を。
クリスタルボウル 奏者 サウンドセラピスト
遠 藤 園 子