「記憶の森」
記憶はとても細かい粒でできていて
生まれたそばから ゆっくりとこぼれ落ちる。
たとえば
夏休みにカミキリムシを捕まえたイチジクの木の
葉をちぎったら手についた白いべたべた。
20歳の誕生日に友達が作ってくれた
チキンのトマト煮の味。
わたしの赤ちゃんが初めて微笑んだとき
部屋を満たしていた優しい春の日差し。
とるにたらない小さなものも
とても忘れようがないくらい大きなものも
記憶の森の奥深くに沈んで
ひっそりと眠る。
いつの日か不意に目覚めて
光を受けてきらめく瞬間を
静かに待ちながら。
F12 606×530
acrylic on canvas
2025




